×
日本史
世界史
連載
ニュース
エンタメ
誌面連動企画
歴史人Kids
動画

「エッフェル塔を売った詐欺師」ヴィクトール・ルースティヒの詐欺手口

歴史でひもとく国際情勢

 

■なんとエッフェル塔を二度も売る

 

 ところがポワソンの妻は、エッフェル塔の売却話自体に疑問を持ち、彼に入札から撤退するように説得しました。妻から強く言われたポワソンは、ルースティヒに入札辞退を申し出ます。するとポワソンはこう言います。

「何と情けないことか。あなたが最高額を入札していて、落札できるというのに」

これを聞いたポワソン。おやっ?と思います。本当か。自分が落札できるのか。

彼の表情が変わったことを見たルースティヒは、ダメ押しをするかのように続けます。

「私はしがない政府の役人に過ぎなくてね。過重労働の割に収入は少ないんだ。」

ポワソンは、これを賄賂の要求だとすぐに見抜きました。当時のフランスの役人は腐敗しており、公的な取引には賄賂はつきものだとポワソンは思っていました。

 

 ポワソンは「わかりました」と言い、入札金5万フランと賄賂2万フランをルースティヒに受け渡してしまったのです。金を受け取ったルースティヒはすぐにパリからウィーンに高跳びをしました。

 

 ルースティヒはこの件がいつニュースになるか、ウィーンで見守っていたのですが、いっこうに報道されません。打ち合わせのため政府の公的機関に赴いたポワソンは、エッフェル塔売却などないことを知らされ、すぐに騙されたことを知りました。しかし事件が新聞で報道されて自分と会社の名声が失墜し、ビジネスができなくなることを恐れ、彼は警察に報告しなかったのです。

 

 ポワソンが警察に行かなかったことを知ったルースティヒは、再度パリに向かい、同じ手口で2回目のエッフェル塔売却をやろうとしました。この時は、途中で相手が警察に通報したとも、7000フランを手に入れて再びウィーンに逃げたとも言われています。さすがに2回目で完全にフランス警察にマークされてしまい、ルースティヒは米国に高跳びしたわけですが、バレるまで同じ手法で詐欺を繰り返すのです。

 

 さすがにエッフェル塔を売るような大胆な詐欺は現代ではなかなかありません。しかし、相手の懐に入り込み仲良くなって味方であるように振る舞う。相手の弱みや心理を突いて、金を払うしかない状況に追い込んでいく。そういった手口は今も昔も変わらないものです。知識として知っていても実際にそういう状況に陥ったらまんまと騙されてしまうのが詐欺です。「怪しい話は最初から相手をしない」ことが重要です。皆さまもお気をつけください。

 

 

KEYWORDS:

過去記事

尾登雄平おとうゆうへい

1984年福岡県生まれ。出版社にて勤務する傍ら、世界史の面白いネタを収集するブログ「歴ログ-世界史専門ブログ-」、YouTubeチャンネル「歴ログ-世界史専門チャンネル-」を運営。歴史ライターとしても活動し、ビジネス雑誌、企業オウンドメディア、会報誌などに寄稿する。著者に『あなたの教養レベルを劇的に上げる 驚きの世界史』(KADOKAWA)、『「働き方改革」の人類史』(イースト・プレス)がある。

最新号案内

『歴史人』2025年11月号

名字と家紋の日本史

本日発売の11月号では、名字と家紋の日本史を特集。私たちの日常生活や冠婚葬祭に欠かせない名字と家紋には、どんな由来があるのか? 古墳時代にまで遡り、今日までの歴史をひもとく。戦国武将の家紋シール付録も楽しめる、必読の一冊だ。